
そもそも、山田耕平さんがアフリカ・マラウイに派遣されたのは、村落開発普及員として、灌漑(<かんがい>農地に外部から人工的に水を供給すること)に取り組むためでした。
「学生時代に、台湾へ留学していたことが僕の進路を左右しました。様々な文化、価値観に触れ、その上で世界の貧困問題について学ぶ機会も持ちました。もともと、アジアを放浪するのが好きで、実際に深刻な貧困を目の当たりにしていましたし、自然と、途上国に関わる仕事をしたいと思うようになったんです」
大学を出たばかりでアフリカの地に立ち、とにかく与えられた仕事を遂行する毎日。でも、任務のほかに気になったのが、マラウイでのエイズ問題でした。
「普段の会話で、『あの人、HIVに感染したらしい』、『この前、あの人がエイズで亡くなった』…って聞くんですよ。周囲でお葬式がしょっちゅうあって、そのたびに悲しい思いをするんです。でも、そうなるのは必然だった。みんなの中のエイズ予防に関する知識と意識が、とにかく低かったんです」
マラウイのHIV感染率は14.4%。約90万人が感染しており、年間約8万7000人がエイズで亡くなっています。しかも、1年のHIV新規感染者の約半数は、15歳から24歳の若者が占めるそう。そこで山田さんが考えたのは、歌に乗せてエイズ予防の大切さを伝えることでした。
「自分で詩を書き、マラウイでトップミュージシャンのムカラ・マリロのところへ持って行ったんです。『これに曲をつけてくれ。そして歌ってくれ』と。そしたら、『キミが作った詩だし、キミが歌ったほうがインパクトがある』と言われ…」
こうして甚平姿の日本人ミュージシャン・山田耕平が誕生しました。その曲のタイトルは『ディマクコンダ』、マラウイの母国語・チェワ語で「愛してる」という意味。それまで山田さんは、歌と言えば「カラオケで歌うぐらい」だったそう。しかし、テレビやラジオに持ち込まれた軽快なアフリカン・サウンドは、たちまちヒットチャート1位に踊り出て、レコード大賞にノミネートまでされました。

山田さんの『ディマクコンダ』には、直接的に「エイズを予防しよう!」ということは歌われていません。
「愛し合う恋人同士。ある日、彼のほうがHIVに感染しているとわかり、彼は彼女に別れを持ちかける…というような流れのラブソングです。『コンドームを使おう!』なんていう直接的な呼びかけよりも、エンターテイメントにしたほうが、広く伝わると思ったんです」
山田さんは曲の間じゅう「ディマクコンダ(愛してる)」を連呼し、物語の結末は彼女のほうのこんな言葉で締められます。
「私たちはいつまでも一緒よ」
歌の中で「愛する人のために何をすればいいか?」をマラウイの若者たちに問いかけたとき、彼らは「エイズ問題に対する関心を高めよう」という結論を導き出したのでした。
このCDの売上金は、マラウイでのVCT(自発的カウンセリングとHIV検査)機関の設立に役立てられるそう。
「エイズはまず検査によって早急に医療対策をされることが大切ですが、感染者の精神的ショックや差別などに対するカウンセリングも必要です。それをすべてフォローする機関がVCT」
このVCTは、日本には存在しません。でも日本でも必要なのではと思うくらい、エイズ問題は他人事ではない事態になっています。
「昨年1年間のHIV感染者・エイズ患者数の報告は、1199件。実に1日に3人がエイズに感染している計算になります。先進国で唯一右肩上がりに新規感染者が増えているのが日本。ワイドショーやニュースで、『アフリカのエイズ問題』って取り上げられていると、『おいおい、日本も問題なんだから! そこで話を終わらせないでくれよ、司会者!』って、テレビに突っ込みを入れてしまいます(笑)。でも日本にVCTが絶対的に必要かといえば、僕はそうとは限らないと思っています。だって、保健所などで、無料・匿名で検査を受けられるし、電話で相談したり、知識をつけたければインターネットで調べたりすることができますからね。でも途上国はそうはいかない」

日本に帰国した山田さんは、『ディマクコンダ』を日本でもリリースし、各地でコンサートや公演活動をしています。特に学生とコミュニケーションを取ることが多く、「カッコイイ若者が増えてきている」と感じているそう。
「日本での感染者数増加は、データの上では知っていました。でも、2年間マラウイにいたので、日本の現状を肌で感じることができなかったんです。とかく『最近の若者は…』と言われがちな世の中なので、半信半疑で学生とのシンポジウムなどに参加していました。でも、すぐに『ちゃんとしてるじゃん!』と。ちゃんと真剣にエイズ問題を考え、NPOまで立ち上げている若者がいるんです。もう、自分が学生だったときと比べると、『自分は何をやってたんだ』と思うくらい(笑)。日本でも危機感を持つようになれば、普段の会話の中で、ナチュラルにエイズの話ができるようになると思います。遊んでいる友人に、『おい、エイズのこと考えている? ヤバイんじゃん。検査行ったほうがいいんじゃない?』という会話でいいんです。それが、エイズに対する関心が高くなったことだと思うから」
日本では、「特定の人しかエイズに感染しない」と捕らえがちなところを、山田さんは問題視しています。そこを、歌やコミュニケーションを通じて是正していければ…。山田さんは言います。
「エイズのこと、サラッと会話に出せる女性ってカッコイイと思います。『エイズのこと考えてる?』、『検査行ってみたら?』、『コンドーム、ちゃんとつけてね』って。それはつまり、相手のことを思いやって言うことでしょ。僕なんか、それですぐに『思いやりのある女性だな』って印象を持ちますね。そこにはなにせ、大切な人を守りたいという『愛』があるから」
考えてみたら、これまでの自分が、どれだけエイズの話題をしてきたか…と言えば、皆無に近いことに気づく人がほとんどだと思います。そんな日本の現状を、心地よいリズムと共に「愛している」という言葉で、サラッと問題提起している山田さん。彼こそ、本当にカッコイイ若者なのではないかと思わされるインタビューでした。 |
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アフリカの南東部にある、国民約1,200万人、国土面積約12万平方キロメートル(日本の本州の半分くらい。ただし約20パーセントがマラウイ湖で占められる)の小国。最近では、マドンナがマラウイの子どもを養子にし、話題となった。

山田さんが任務に当たった、小規模灌漑建設現場にて。

作曲を引き受けてくれたムラカ・マリロさんと、ミュージシャンとしてトレードマークとなった甚平姿の山田さん。

いつも遊びに行っていた、近所の小学校の子どもたちと。


名古屋でのライヴのひとコマ。名古屋に住むアフリカ人のみなさんと、ディマクコンダを熱唱! |